Category : 勧善懲悪を学んだ時代劇と刑事もの

渡辺謙のイメージを変えた「御家人斬九郎」

1987年に放送された、大河ドラマ最高傑作と名高い時代劇が「独眼竜正宗」。この作品で正宗を演じ、役者として大きく飛躍を遂げたのが渡辺謙です。当時は若手俳優の一人でしかなかった中で、大河ドラマ主演に大抜擢を受け、またこの抜擢に見事に応え「正宗といえば渡辺謙」と言われるほど、強烈なインパクトを残しました。

正宗のイメージに悩んだ渡辺謙

しかし、この大成功により、伊達政宗のイメージが強く着きすぎたことが、後に渡辺を悩ませることになります。勇猛な若武者・正宗のイメージから逃れるべく、1995年に渡辺が挑戦した時代劇が「御家人斬九郎」。

"明るい眠狂四郎"がコンセプトとなる、柴田錬三郎原作の時代劇で、主人公は落ちぶれた武家の九男坊、食い扶持を稼ぐために「片手業」と呼ばれる暗殺家業を請け負う、というものでした。

凄腕だがダメ男・斬九郎

設定としては、落ちぶれたとはいえ武家の跡取りであり、また武芸の達人でもあった斬九郎。しかし遊び人で大酒飲み、貧乏でいつも金の工面に苦労して、せっかく稼いだ金も岸田今日子演じる母・麻佐女の食費に消えて……と、非常にコミカルなキャラクターとして描かれました。

そして、渡辺はこの斬九郎役もまた、見事に演じ切ります。遊び人だが人情に厚い、人間臭さ溢れるこのキャラクターは、伊達政宗のイメージで固まっていた渡辺の印象を大きく変えました。

また、作品自体も町人文化が成熟した江戸時代末期を舞台に、コミカルでありつつ粋な魅力を描いていました。口やかましい母・麻佐女は美食家でもあり、斬九郎が片手業で稼いだ金を、すぐさま豪華な料亭料理で消費し、斬九郎から「くそばばあ!」と罵られたりしますし、斬九郎と相思相愛となる芸者・蔦吉(若村麻由美)は、男勝りな口調と気性でありつつ可愛さもあり、時に斬九郎とともに殺陣を演じるシーンもありました。

この蔦吉も魅力あふれるキャラクターで、京の祇園芸者と対になると言われる江戸ならではの芸者、芸は売るが色は売らないという辰巳芸者のプライドを持った強い女性として描かれつつ、時に斬九郎と憎まれ口を叩き合うような可愛らしさも持っていました。

女性といえば、斬九郎には年若い許嫁・須美との関係性も作品にアクセントを加えていました。斬九郎にとっては妹のようにしか思えず、須美も蔦吉の存在を知っているため許嫁として振る舞うこともできず、そして蔦吉も芸者としての身分をわきまえ自分の思いを内に秘める。時代劇でありながら、当時流行っていたトレンディドラマのような三角関係も描かれていました。

渡辺謙の転換期にあたる注目すべき作品だった

この作品で新たなイメージを獲得した渡辺は、二枚目ではない悪役やダメ男の役も演じるようになり、また2003年には「ラスト サムライ」でハリウッドへも進出。国際的スターとして脚光を浴びます。

思えば、渡辺がスポットライトを浴びるときには、かならず時代劇への出演がありました。「独眼竜正宗」と「ラストサムライ」をつなぐように、演技の幅を大きく成長させた「御家人斬九郎」もまた、注目されるべき名作と言えます。

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